ニトリの低反発クッション(U字型)は「正解」だった
リモートワークは楽でええなぁ、と鼻歌を歌っていたら、突如、腰と背中に痺れが走った。
たまたまかと思ったが、前傾になるとビリビリ来る。
普段ならどうにかして医者を回避しようとするのだが、腰となると話は別だ。
早々に評判の良い整形外科を探してレントゲンを撮ってもらったところ、骨には全く異常がない。
「背中が凝り固まって血流や神経が阻害されてるんでしょう」と電気療法に回される。
昔のアニメに出てくるような、ダイアルやボタンが沢山ついた謎の機械に繋がれ、患部に電気を流されたのは面白かったが、これが1ミクロンほどの効果もない。
個人的に治療というものは「ほぼ気のせい」「なんとなく」レベルですら価値があると思っているのだが、本当に微塵も変化がないので不安が増大した。
帰る道々、どうしてこんなことに…と思ったが、原因が多すぎた。
結論から言うと、すべての発端は「クッションが死んだチェア」だ。
座り心地など意識していなかったが、実は尻が痛んでおり、足を組んで負担を減らそうとする姿勢が癖になっていた。
すると片方の尻だけに荷重する、股関節がねじれる、背骨や骨盤が傾く、バランスを取ろうと前傾姿勢になる、大腿部が圧迫される、血流阻害フェス開催の運びとなる。
早速ストレッチを始めたが、尻の救済も急がねばならない。
ここは外せないと思い、世間で絶賛されている(しかし整体師からの評判は悪い)ゲルクッションを買ってきた。
ハニカム構造の威力やいかに!と期待したが、ゲルクッションはかなり厚みがあり、座高が上がりすぎて前傾度が増し、しかも座面がブワブワ揺れて痺れが余計に悪化した。
たかがクッションを変えただけで即座に悪化するとは。
恐怖に震えながら、座高に影響しない厚さの低反発クッションを買い直したが、今度は厚みが足りず緩衝の役割を果たしてくれない。
椅子はこれ以上下がらないし、どうしようか。
もっと本気を出して骨盤矯正具(ゆりかご的なやつ)を買おうと商品を見に行ったが、選択の難しさは聖杯選びのようだ。
その場で試せる製品もあったが、せいぜい1分程度座ってみたくらいでは本当の効果はわからず、自宅の椅子に置いたときの高さがどうなるのか、そもそも座面にしっかり納まるのかなども読みきれずに不安になった。
これはもう椅子ごと買い替えた方が早いとニトリへ行った。
2万程度で良さそうな椅子があったのだが、座ってみると座面が広すぎて、浅く座らないとデスクが遠くなる。
では安価なものは、となると座面はちょうど良くても座り心地が悪く、2ヶ月くらいで軋み出しそうな揺れ方をする。
失敗した場合の、返品したり転売したりという手間を考えるとうんざりしてくる。
疲れ切って帰ろうとしたとき、クッション売り場が目に入った。
見るからに「姿勢サポート」然とした商品があったので、せっかく来たのだからと買ってみた。
だが家に帰って、またがっかりである。
サイズは座面にぴったりだが、形がおかしい。
U字なのは承知で買ったが、Uというより、尻の割れ目に沿ってスリットが入っているような形で、その幅はどうにか片手が差し込めるくらいの狭さだ。
中途半端なところで途絶しているので、着地できない部分の尻がもぞもぞする。
「左右に分かれているその部分は、それぞれの尻を優しく包むためのものじゃないのかよ!」
怒りながら公式の商品説明を見に行くと「U字の穴にお尻がフィット!」などと書いてある。
「フィットしねーよ!どんだけ小さい尻を想定してんだよ。半端なんだよ。尻全部が納まるボウル状にするか、尻サイズに合わせた穴を空けるかどっちかにしろや」
クッションも3個目なのでイライラが凄い。
もぞもぞしながら2日くらい椅子から外したり戻したりして使っていたが、そのうちなんとなく理解が進んできた。
これはあえて、尻のすべてを受け止めたり、尻のすべてを嵌めたりしない形状なのだ。
U字のスリットに向かって、割れ目ちかくの尻肉が内側へ傾くのだが、切り込み部分が狭いので椅子の座面には到達しない。
だから接地するはずの骨が浮いたままのような形になる。
つまり何かに当たると一番痛い箇所を、どこにも当たらない状態にしておける。
痔主になったことがないのでわからないが、肛門周りにデリケートな事情がある人にも良いのではないかと思う。
一方で尻の主要パート(中央から両側にかけて)は厚めのクッションで頼もしく保護される。
負荷を分散させようとする優しさを尻で感じられる。
また、どこに座るべきかの凹凸がついているため、ドサッと適当には座れず、意外と姿勢も正しくなる。(そもそもそれを謳った商品だった)
骨盤矯正具の雰囲気が「しっかり座れやオラァ!」という感じなら、こちらのクッションは「ちょっと気を付けてみようね?」というマイルド調教だ。
最初こそ半端なスリットが気持ち悪いと思っていたが、座り方に慣れると楽である。
エアリーとか無重力感などと言ったところで、尻が接地する製品が多いが、こちらは本当に浮いているのだ。
結構フカフカだが、スリットで中央部が沈むのでグラグラした感じにもならない。
絶妙だ。
こうして尻に平和が訪れたところで、前方にある大腿部用のくぼみが気になりだした。
「そこが前方に傾斜してたら腿ウラを圧迫するだろうが!」と再びキレかけたが、足の裏を床につけた時に膝が90度になれば、ほどよい隙間ができるしくみだ。
ただし自分の場合、膝を90度にするためフットレストが必要になった。
座高が高いということは、それだけ腰下は短いのだ。
クソ座高が!と罵りながらフットレストを設置したら、腿の圧迫感は消えた。
かくして尻は巧みな工夫でふかふかと包まれ、股関節と大腿部のストレスから解放された。
おお、なかなか良いではないか!良いではないか!
正直言えばメッシュカバーの感触はいまいちだが(やや目が粗い)、不快というほどではなく、洗濯もできる素材なのでGOODだ。
裏面には滑り止め加工がしてあるから、椅子からズレてイラつくこともない。
設問
「ウレタン素材のクッションで1500円は安いと思わなかったが、その効果については『お値段以上』と認めても良いだろう」
下線部について、購入者の偉そうな心情をわかりやすく説明せよ。
(らららニトリ付属専門学校:入試問題より)
なにせ流行に流されゲルクッションで大敗し、ノーマルクッションでも失敗した。
骨盤矯正具や椅子購入は価格と手間においてハイリスクなギャンブルだった。
使えねぇクッションを何個増やすんだよ…と絶望していたところで、見事正解を引けたことがとても嬉しい、と同時にキレすぎたので恥ずかしい。
まだ数日の使用だが、腰には確かな復調の兆しがある。優秀!
まぁ腰が、背中が、といっても、人の数だけ原因や対処方法が違うはずなので、決して全方向で勧めはしないが、「とにかく尻が痛いんじゃ!」「なんだか姿勢が悪いんじゃ!」「今の座面は蒸れるんじゃ!」いう人にはかなりの良品だと思う。
もし入手したら、ぜひ後方から隙間に片手を突っ込んで、肛門周りを優しく包んでみてほしい。
心も尻の割れ目もほっこりするような安心感に包まれるはずだ。