『はたらく細胞』のはたらき

はたらく細胞』という人気アニメがある。
細胞を擬人化した可愛いキャラ、身体のしくみをわかりやすく見せる舞台設定やデザイン、1話完結型とあって、とても見やすい。
雑菌殺傷の場面は返り血や返り汁やらを浴びたりして少し怖いが、グロ趣味というわけでもないので子供の視聴にもセーフだろう。
このアニメを視る者は、おおかた自分の健康や生活習慣を振り返ったり、人体に対する関心を深めたり、細胞に萌えたりして、良い影響を受けていると思う。

ただ、作中で使用される用語は堅めなのに、話の展開はやや退屈で、同時期に話題になった他のアニメ作品ほどは面白く感じられなかった。
制作の経緯を見たら、教材としてのリクエストが発端とあり、初手からそうと知っていたら素晴らしい教材だなぁ、で終わっていただろう。

個人的に、学びも遊びも兼ねる作品は、「学び」目的の時は楽しいのだが、「遊び」目的の時に「学び」がチラつくと拒否感から興ざめしてしまうことがある。
そもそも「学び」と「遊び」の境界線は、各人の教養度や向上心等によってスライドするので、例えば誕生日プレゼントとして「漫画で学ぶ歴史」的なものを貰って嬉しいタイプなら気にならないのかもしれない。
自分は幼少期、オセロやチェスを玩具として宛がわれ、駒を並べたり積んだりする「作業」しかできなかった不満から、遊びの場面での「教育」「学習」の臭いには反感がある。
その頃きちんと喋れていたら、親にこう言っていただろう。
「これは玩具じゃないから情緒は育たない。ルールも教えてもらえず対戦相手もいないから学習にも脳トレにもならない。自分は効率的に『ごっこ遊び』ができる玩具セットが欲しいのだ買ってくれ」
こうした不満と同時に「正確な内容であるかどうか自分で判断がつかない」という劣等感からの苛立ち、反発もある。
たとえば創作において、キャラが専門知識を披露するような作品があったとしたら、その内容の正しさよりも「尤もらしく、見栄えがする演出」の方が大事だと思っている。
だが、しっかり作られた作品ならば知識があっても邪魔になどならないどころか、リアルとの違いや、アレンジ具合を楽しんだりもできるだろう。
つまり『はたらく細胞』の場合、医学や生物学等に詳しい人ほどより楽しめるのだろうから、視聴の際そういう人物が身近にいて、いろいろと解説してくれると嬉しい。
…といった要望が最初から明確にあったわけではないが、この英国人医師のレビュー動画を見た時に、「そうそうこれこれ!」となった。

 

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<Dr Hope's Sick Notes> というチャンネルで、言語は英語だが、日本語字幕も対応している。
通常このドクターのレビューは、医療関係の映画やドラマがメインのようで、この最初の動画の時点では「アニメを見る習慣はあまりない」的なことを言っている。
医学の知識はあるがアニメ的な表現や手法については素朴、時々仕事の苦労についての感想が挟まる、というカジュアルな雰囲気がちょうど良い。
自分はこのレビューのおかげで、視聴の楽しさが増した。
現在『はたらく細胞』はシーズン2が始まったので、シーズン1のレビューを急いで終わらせたようだが、これからのレビューも楽しみだ。

ところで『はたらく細胞』のシーズン2と同時に『はたらく細胞BLACK』というアニメも始まった。
こちらは不健康な人の体内で、飲酒や喫煙といった不摂生対応に追われ奔走する細胞の様子が描かれている。
これを視聴した人々の中には、不摂生を反省したり、細胞に謝罪したくなったりする人もいるらしい。
個人的には、どれほど不摂生をしても細胞に対して感謝や謝罪の気持ちを向けたことはないのだが、前回の記事でトラブルまみれの足指を見ていたら、これは凄まじいBLACK 環境だなと反省した。
こんな小さな足裏面積だけで、365日、50kg超の肉塊を支えさせるばかりか、何百㎞も移動させるという苦行を強いながら、汚れても傷んでも全然気に掛けてやらなかった。
それどころか「足の形がおかしい」「不具合ばっかりだな」云々、パワハラも重ねていた。
巻き爪になったのも血豆ができたのも足のせいではなく、管理者が奴隷のように扱ったせいだ。
自分の体を分離客体化するのも妙かもしれないが、内臓には似たようなことをやるのだから、パーツに対してやってもいいだろう。
これからはできるかぎり5本指ソックスを履き、月に1回は足回り感謝デーを設けようと思う。

 

ところでBLACKを見ていて、不摂生より延々と気になったのは主人公の赤血球の声だった。
そのうち変異して壁や天井に貼りついて遊走しそうではないか。
本体が日本人なら、体外に放出されたとき「地獄からの使者!」と名乗ることも可能だ。